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内視鏡のお話 ~切る前にやれること、結構あります~
21.07.06(火)
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みなさんこんにちは。副院長の佐野です。
長らく更新が滞ってしまいました…。書きたいネタはたくさんあるんですが、ついつい長文になっちゃうのでなかなか書き終わらないんですよね。笑
というわけで今回も結構長いんで、診察の待ち時間にでも暇つぶしにどうぞ~。
今日は内視鏡のお話です。
実は「内視鏡」というのはすごくざっくりした言葉で、身体に挿入するカメラ類を色々まとめて呼ぶ言葉です。
「腹腔鏡」、「関節鏡」、「気管支鏡」、「膀胱鏡」など、聞いたことあるでしょうか?
これら全部、内視鏡の仲間たちなのです。
当院には、動物用の「消化管用内視鏡」がありますが、長いのでこの後はコレのことを「内視鏡」と書きますね。
口から挿入して胃・十二指腸まで見る、または肛門から挿入して大腸を見ることができます。
ですが、実は「見る」だけで終わらないのが内視鏡のすごいところ。
今回は内視鏡でできることを紹介したいと思います!
まずは「異物の除去」です。
動物は食べ物じゃないものも平気で食べてしまうことがあります。小さくて、そのままウンチに出てくれば問題ないのですが、そうとも限らないのが不安の種。
うまく排便できず腸に詰まったりすれば緊急手術が必要になるので、胃袋の中に転がってるうちに内視鏡で取り出してしまいましょう!
これは石ころですね。石とか金属はレントゲンにも映るので見つけるのは簡単ですが、その後どうするか迷うところです。内視鏡ならお腹を切らずに取り出すことができます!
さて次は…問題です!この黒くて細長いものは一体なーんだ…!?
正解は…
髪を束ねたりするゴム紐です!
計り売りとかのながーいやつを、いたずらして食べちゃったようですね。この小さい猫の体でこれだけの量が胃に詰まってたら、そりゃ具合悪くもなりますわ…。
しかし、ブチブチ咬みちぎって食べてたのが不幸中の幸いですね。長い紐状の異物が腸に流れていくと、異物を中心にして腸全体がしごきあげられるようにちぢれ、広範囲にわたって腸が裂けてしまうことがあります。そうなると内視鏡では解決できずに緊急手術となりますが、重症だと亡くなってしまうことも少なくありません。
というわけで、ヒモを食べてしまったワンちゃんの写真がこちら。
これは食道ですね。舌に引っかかったままタコ糸のようなものを飲み込んでしまったようで、このまま奥、小腸までつながっています。舌に引っかかってる方から引っ張ってもびくともせず、開腹手術が必要になってしまいました…。
しかし、よじれた腸を切開してひもを切り、引っかかりを取ってやってもまだ取れない!
開腹手術と同時に内視鏡を入れ、ようやく取り出すことができました…!
異物の話はこのへんにして、次です。
内視鏡はこのためにこそある!「生検」です!
生検とは、病気の有無、または病気の種類を調べるために組織の一部を採取することです。
まずこれは、ほぼ正常な胃。
犬の胃袋はUの字になっていて、中央の壁を「胃角」と呼びます。胃角は通常大した厚みはなく、何なら単なるひだみたいなものなのですが…。
こちらは別の子の写真。この子の胃角は分厚いですね。腫れあがっています。ここは何か病気がありそうだ、ということで生検をします。
パカッ!
ガブッ!
ブチッ!
実際、小さいマジックアームのような器具で組織をちぎってくるのですが、擬音で書くとずいぶん雑な感じですね。笑
しかし組織を採取するこの道具、ボールペンの先ほどの大きさしかないので、これで胃に穴が開いてしまうようなことはありません。
ともあれ生検の結果、この子は胃ガンでした。かなり広範囲に広がっていたため手術は行わず、対症療法で最後の時を家族と一緒に過ごすという選択を取りました…。
お次は…やはり胃なのですが、浅いクレーターのようなものが無数にありました。
これも正直見ただけでは何だかわかりませんので生検をします。
ちなみにこちらは同じ子の十二指腸。口から内視鏡を入れた場合、この十二指腸まで観察や検査をすることができます。
(小腸は十二指腸・空腸・回腸という順番で3つのエリアに分かれます。)
十二指腸は見た目に大きな異常はありませんでしたが、同様に生検します。
病理検査の結果は、「リンパ球形質細胞性胃腸炎」でした。
ちょっと複雑な病気なので、機会があればまた詳しく書きたいと思いますが、この病理検査の結果とその後の治療反応を含めて総合的に評価すると、この子の病気は「炎症性腸疾患(IBD)」と呼ばれるものが胃まで波及しているもので、ステロイド薬での継続治療が必要と思われました。
ステロイドは安価でよく効くお薬ですが、長期投与にはデメリットもあります。数週間とか短期で使うならともかく、年単位、あるいは生涯必要かもしれないとなれば、できるだけ確実な診断のもとに使いたいところです。
この診断をするには内視鏡がなければ開腹手術が必要になりますから、お腹を切らずにそれが叶うという意味で、内視鏡の面目躍如と言えますね。
そしてお次は、お尻から入るパターン!
これは猫の大腸です。慢性的に下痢をしており、原因究明のため内視鏡検査になりました。
が、見た目はキレイですね。
さらに奥に進めていくと、大腸のスタート地点に到達します。写真真ん中のおへそのような部分が小腸と大腸を隔てる扉「回盲弁」です。
周りにうんちが残っていますね…。
大腸の内視鏡をやる時は、丸1日絶食し、浣腸でうんちを流してから行うのですが、それでも結構残ってしまいました。事前準備まで含めるとなかなか大変な検査です…。
というわけで、大腸の奥まで来ましたが、やはり見た目に異常はありませんね。
胃や小腸と同じように生検した結果、この子も先ほどと同じ「リンパ球形質細胞性腸炎」という評価でした。猫ではちょっと珍しいですが、現在やはりステロイド治療を試みています。
内視鏡での生検が重要なのは、この「見た目正常なのに病気がある」ということがわりとよくあるためです。
なので、見えることよりも生検できるということが内視鏡の強みなのです。
こんな感じで、口・食道~十二指腸、そして大腸と、「消化管の大部分」を検査できる内視鏡ですが、ちょっとだけ番外編。
穴が二つに分かれていますが、一体これはどーこだ!?
答えは、「鼻」です!
内視鏡を喉の辺りでターンさせると、鼻を内側から観察することができるのです!
まぁ、内視鏡を限界まで曲げる必要があるため器具を挿入することができず、鼻に関しては「見るだけ」なんですけどね。
さてさて、長くなってまいりましたが、内視鏡でできること、次が最後です!
「胃瘻チューブ設置」!
胃瘻チューブと言うのは、身体の外から胃の中に直接食べ物を入れるためのチューブのことです。
何らかの理由で口からのお食事が難しくなってしまった場合に設置します。
外見はこんな感じ。
脇腹から伸びているチューブ、これが直接胃に入っています。
ぶらぶらしてると普段は邪魔なので、
こんな感じで、包帯や服で覆っておきます。
胃の中はというと…
白い丸いのがチューブの先端です。きのこの傘のようになっていて、簡単には抜けません。
中央の穴から流動食が流れ込んでくるという寸法です。
この胃瘻チューブ設置も、内視鏡がなければ開腹手術を行わないとできません。
しかし、胃瘻チューブを設置したい状況というのは、しばらくゴハンが食べれていなかったり、あまり状態が良くない場合がほとんどですので、手術に耐えられるのかというのが心配ですよね。
内視鏡も全身麻酔は必要ですので絶対安全というわけではないのですが、手術に比べて圧倒的に短時間で、かつ大きな傷をつけることなく設置できるため、動物の負担をかなり減らすことができます。
というわけで、内視鏡でできること、いかがだったでしょうか。
内視鏡のことを俗に「胃カメラ」なんて呼んだりしますが、胃の写真を撮るだけでなく、案外色々なことができるんだぞ!というお話でした。
病院の設備、そして私の技術が上がればもう少しできることが増える…予定ですが、まぁ、予定は未定です。笑
獣医道は終わりのない修行の日々ですなぁ。これからも頑張ってまいりましょう!
ではでは、また次回~。