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緑内障と義眼のお話 ~見えない目玉に意味はあるか~
18.09.01(土)
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みなさんこんにちは。副院長の佐野です。
先日とある患者さんに立派なかぼちゃをいただきまして。正直普通に調理しても食べきれなさそうだったので、ポタージュスープにしましたよ。全部。
一玉ぜんぶ裏ごしするのは大変でしたよ~。ミキサーもフードプロセッサーもないんで、製菓用の粉ふるいでひたすらぺたぺた…アッツアツに煮られたかぼちゃをひたすらぺたぺた…3時間かけてつぶしました。
おかげさまで大変口当たりの良いポタージュが12杯分完成しました!
しばらくポタージュには困りませんね!!
…フープロ買お。笑
はい、というわけで今日は緑内障のお話です。かぼちゃとはなんの関係もないです。笑
猫でも発生する病気ですが、圧倒的に犬で多い目の病気ですね。
というより人間にも発生するので、名前だけならご存知の方も多いかもしれません。
では、緑内障とはどんな病気なのでしょう。
眼球というのはビー玉のような固い玉ではなく、水風船のように内部に液体がたまっていることで形を保っている組織です。
水風船は水が少なければしぼんでしまうし、水が多ければ大きく膨らみますよね。眼球も同じで、常に一定量の液体を内部にとどめることで正常な形とサイズを保っているのです。
緑内障というのは、この液体が多すぎる状態です。眼球は大きく膨らもうとし、その膨らもうとする力によって網膜や視神経がギュウギュウと圧迫されます。
これがまぁ痛いです。ゴハンも食べられなくなるほどに。
この状態が長く続くと、網膜や視神経の細胞がどんどん死んでいってしまいます。
網膜は光を映しだすスクリーン、視神経はその映像を脳みそに伝えるケーブルです。どちらが壊れても「物を見る」ことはできなくなります。
これが緑内障の概要ですね。
(実は人間の場合は、眼圧が正常なまま起こる「正常眼圧緑内障」が多いらしいのでちょっと話が違うのですが、犬の緑内障はおおむね上記のような感覚で理解してもらえば大丈夫です。)
さてこの緑内障。目の炎症や腫瘍、また白内障などの別の病気によって引き起こされる場合と、特に病気なんかないんだけど突然なっちゃう場合とがありまして、前者が「続発緑内障」、後者は「原発緑内障」と呼ばれます。
続発緑内障の方はもとになっている病気の話が絡んでくるので、今回は「原発緑内障」についてのお話と思ってください。
原発緑内障になりやすい犬種は、プードル、ビーグル、シーズー、柴犬、ゴールデンレトリバー、アメリカンコッカースパニエルあたりが代表格です。
当院の看板犬でもあるバセットハウンドも好発犬種の一つですが、日本ではそれほど多く飼われていませんね。
これらの犬種は、眼球内の液体(房水)の成分が変化して流れにくくなったり、房水を排出する排水口の部分(隅角)が、生まれつき狭かったりします。
そのため、「入ってくる水の量」がふつうなのに対して、「出ていく水の量」が少ないため水風船が膨らむ方向にいきがちなのです。
この隅角を、手術などで広げたりすることは今のところできません。房水の流れを良くする目薬がいくつかあるので、それで治療するのが基本です。
ですが、今使われている目薬は、病気の進行に伴ってそのうち効かなくなってしまうのです。
排水口の掃除をせずに、ただパイプ〇ニッシュだけたらしてても詰まっちゃいますよね。それと同じようなものです。
そんなわけで残念ながら、今のところ緑内障は「治らない病気」の一つとされています。
点眼治療はあくまでも、痛みを取り、目が見えなくなるまでの時間を延ばすだけで、その子が長生きすればこそ、いずれはほぼ間違いなく失明します。
そのため、目が見えるうちは頑張って目薬での治療を行いますが、すでに失明してしまった目については、緑内障の治療方針は少し変わります。
痛みを取ることが唯一の治療目標になり、視力の保護を考える必要がなくなるため、「痛み止めでやり過ごす」「薬物で眼球内の細胞を殺す」「眼球を取り除く」などといった治療が選択肢に入ってきます。
これらの治療法には、痛みからの解放、面倒な点眼からの解放というメリットがありますが、一方で大きな欠点もあります。それは「顔が変わる」ことです。
眼球を取り除く場合はのっぺらぼう状態になりますし、それ以外の治療法では目がしぼんでしまうので、目玉は残りますが顔はかなり変わります。
(それぞれの治療法にもっと細かくメリットとデメリットがありますが、長くなるので今回は割愛します。)
顔の見た目を極力変えないようにする場合、義眼を入れるという方法があります。眼球の中身をすべてかき出して、代わりにシリコンでできた玉を入れるのです。そうすると、眼球の外側は残るし、大きさも保てるので、ぱっと見はほとんど前と同じ状態が維持できるというわけです。
というわけで、当院で義眼を入れた子をご紹介しましょう。
これまであまり患者さんの写真を撮る習慣がなかったので、手術前の写真を撮ってなかったのが非常に残念なのですけども。笑
いかがですか。最後の写真なんか、言われないとわかんないですよね。
私も、初めて義眼の子を見たときは驚きましたよ。フツーの顔してるんですもん。笑
さて、こっからは私の持論の話なので、興味がない方は読まなくてもいいです。
実は私、数年前まではこの義眼挿入については否定的でした。
私の大学時代の先生が、もともと義眼挿入否定派だったからですね。
曰く、「体に異物を入れるということは、手術後の感染の確率を上げるだけだ」ということでした。
さらに私自身も、犬は自分の見た目など気にしないし、眼球摘出の方が、涙も目やにも出なくなってまったくストレスフリーに暮らせるし、見えなくなった眼球に意味などない、取っちゃった方が良い、と考えていました。
なんだったら、ほら、隻眼ってちょっとかっこいいじゃないですか。笑
ですが、大学を卒業し、実際に自分が緑内障を診るようになり、見た目の問題を「犬(と私)は気にしないけど、ご家族は案外気にするっぽいぞ!?」ということを感じるようになりました。
考えてみれば至極当然かもしれませんが、いま日本で飼われている犬のほとんどは「愛玩動物」であり、言ってみれば、かわいがられる・愛でられることを仕事として生きています。
だいたいの子がご家族と何年も一緒に暮らしてきているので、単純な見た目だけでその絆が変わるわけではないでしょうが、それでもやはり「その子の顔」というのは、ご家族にとっては思い入れのある大事なものかもしれないのです。
そういう観点で考えると、「見えない目玉」は決して無意味なモノではないとも言える…。
最近はそんな風に思うようになってきました。
というわけで、今回は緑内障と義眼のお話でした。
義眼挿入は仕上がりは非常にキレイですが、いろいろと条件がありますので、みんながみんな実施できるわけではありません。状況によっては他の治療法をお勧めする場合もあります。
眼が痛い、赤い、見えてないんじゃ…?など、気になることがあったらぜひ相談してみてください。
…と、しっかり宣伝したところで今日はここまで~。
えらい長くなっちゃいましたが、全部読んでくれる
ヒマな熱心な方が一体どれだけいるのだろうか。笑