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狂犬病のお話 ~その注射、誰のため?~
18.03.24(土)
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皆さんこんにちわ。副院長の佐野正典です。
今日は狂犬病のお話です。
ワンちゃんの飼い主の皆さんにはそろそろハガキが届く頃でしょうか?
狂犬病予防接種のお知らせですね。ご存知の方が多いと思いますが、犬の登録と狂犬病予防接種は飼い主の義務として法律で定められています。犬は飼ってるけどそんなハガキ来ないよ?という方は、登録していないか、住所変更などの届け出がされていない可能性があるので、役所や愛護センターに確認してみましょう。
「今まで登録してなかったのか!違反だ!」なんて逮捕されたりはしませんので、ご心配なく。笑
ところで、伝染病は数あれど、なぜ狂犬病だけ法律で決まっているのでしょうか??
それは、「人間にうつり、致死率が高く、発症すると治療できない恐ろしい病気」だからです。
厳密には、人間「にも」うつる、と言うべきでしょうか。実は哺乳類はみんなかかります。名前のせいで誤解されがちですが、決して犬の病気ではなく、草食動物もそうだし、理論的にはクジラなんかも感染するはずです。流行地では感染源としてコウモリが問題になっていることも多いです。
唾液からうつるため咬まれて感染するパターンが多く、傷口からウイルスが進んでいき、脳に届くと発症します。そのため咬まれた場所により潜伏期間にかなりの差があるのが特徴です(2週間~数カ月程度)。
一度発症すると有効な治療法はなく、風邪のような初期症状から徐々に興奮や恐水症、麻痺などの特徴的な症状を出し、最終的に麻痺による呼吸困難で死亡します。
狂犬病予防法ができたのが昭和25年のこと。
昨年末に、飼育頭数で猫が犬を上回ったというのがちょっとしたニュースになりましたが、狂犬病予防法ができた当時は、一般家庭で一番身近な動物はやはり犬でした。
そこで、飼育される犬について、飼育者や住所とともに登録し、狂犬病予防を徹底することにしたのです。そのおかげで、法律施行から6年後の昭和31年を最後に、日本では人間の狂犬病患者は発生していません。
では動物はというと、人間の狂犬病がなくなった翌年、昭和32年の猫での発生が最後だそうです。
こうして日本は、世界でも珍しい、狂犬病フリーな国になったのです。
さて。ではこの狂犬病予防法、誰のための法律なのでしょう。
かわいい愛犬を守るため。それはたしかに間違いないのですが、成り立ちから言って、これはむしろ「犬の健康を守るため」ではなく、「ヒトの健康を守るため」の法律なのです。
今は日本に狂犬病はありません。ですが、狭い日本海を挟んだすぐ対岸にはあるのです。いつ、日本で再発生しても不思議はなく、そして、いざ再発生した時に、予防接種の接種率が低かったらはたしてどうなってしまうのか…。
それはもう、ゾンビ映画さながら、阿鼻叫喚の地獄絵図…
…はさすがに言い過ぎですけど。笑
(咬むことで感染することからヒト→ヒトで感染することはまずなく、ウイルス自体は消毒などに弱いため、壊滅的な大流行はそうそう起こらないと考えられています。)
それでも、今日本で狂犬病が発生したとなれば相当な被害とパニックが起こるでしょう。
よそのワンちゃんを「かわいい~!」なんて、怖くて気軽に触れなくなります。
そんなのイヤですね。安心して動物を愛でたいです。
予防医学には「集団免疫」という言葉があります。
ある集団において一定の割合以上の予防接種率を達成すれば、病気が「発生」しても「流行」を防ぐことができる、という考え方です。
この集団免疫、狂犬病に関しては70%ほどの接種率が必要だと言われていますが、厚労省発表の数値によると、ここ数年はまさに70%くらいの接種率だということです。厚労省のデータでは未登録犬は含まれませんから、実際「全ての犬の接種率」は70%をはるかに下回っているでしょう。
そして、実際には犬だけの問題ではないことも注意が必要です。猫も、ウサギも、フェレットも、ハムスターも、ハリネズミも、フクロモモンガも。輸入されてくるペットこそ用心が必要かもしれません。その辺は、今後の法整備や輸入検疫の対応が待たれる部分ですね。
狂犬病の注射は痛いし、まれとは言え副作用が出ることもあります。
ですが、動物を飼っていない人を含む、日本に住む全員のために、絶対に必要なことです。
「私の子が打たなくても変わらないだろう」と、みんなが考えたらゾンビ映画コース、
「私の子はちゃんとしておこう」と、みんなが考えたら安心です。
皆さんのご協力を、ぜひお願いします。
あ、そうそう、そうは言っても健康上の問題で注射できない子もいますよね。毎回副作用が出ちゃうとか、高齢で持病があるとか。
そういう子はちゃんと「接種猶予証明書」が交付されて、その年の注射が免除されますので、必ず動物病院にはかかってくださいね。
あとは、近年、ワクチン接種の間隔についていろいろと議論が出てきています。毎年打つ必要はないんじゃないか、って話ですね。その話は混合ワクチンのことも絡んできますので、また機会があれば書きたいと思います。
ではでは。また次回。