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重症熱性血小板減少症候群(SFTS)のお話 ~キャンプとか行きたいけどちょっと怖い~
20.10.14(水)
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皆さまこんにちは。副院長の佐野です。
もうご存知の方も多いかもしれませんが、先日、病院がリニューアルしましたよ!
待合室のトイレです!
私の写真の腕のせいであまり広く見えないですけどね。笑
実際に入ると案外広々ですよ!
動物のキャリーケースくらいは余裕で持ち込めますし、大型犬もリードフックにつないでおけます。
今までは狭苦しい和式トイレだったので、用を足す間、待合室に動物を放っとくのを心配される方は多かったと思うんですよね。
そもそも和式は使いづらいし…あれは何か下半身のトレーニングですかね?膝に来ますよね。笑
私が子供の頃は学校とかもまだ和式でしたが、今ではほとんど見かけなくなりました。昭和の残り香とでも言いましょうか…。
それがどうですか!ウォシュレットまで付いちゃって、ようやく令和のトイレらしくなりましたよ!笑
待合室のトイレは、私がこの病院に来てからずーっと気になっていた念願の改善ポイントだったので、つい説明が長くなってしまいました。笑
さて。
トイレのお知らせはまぁいいとして。
今日はここから「重症熱性血小板減少症候群」のお話です。
えらい長い名前なので、以下「SFTS」と書きます。聞いたことありますか?数年前から少し話題になって、ちょこちょこニュースにもなっていました。マダニに咬まれることで感染する、ヒトと動物共通で致死性のウイルス疾患です。
去年の年末くらいにも少しこのブログでも触れましたが、あの時は、「冬もマダニっているんだぞ!」って言うのがメインの話題でしたからね。↓
メリークリスマス、マダニ。~こんな時期にどこから来やがった~
ではなんで今日はその話かと言うと、どうもこの浜松にもSFTSの影が忍び寄ってきているらしいのです。
これまでは主に西日本で発生しており、静岡県内では「ウイルスを持ったマダニ」は見つかっていたものの、犬猫や人間での感染例はありませんでした。
それが去る9月、県内初となる猫の感染例が、この浜松で見つかったようなのです!
だから注意してね、ってなことで獣医師会からお達しが来ていたので、ちょっとこの病気についてまとめようと思います。
血を吸う前のマダニ。せいぜい1~2mm。
血を吸った後のマダニ。小豆より大きいかな。
まず病原体はフレボウイルス属の一種で、ウイルス自体はあまり丈夫でなく、消毒は比較的容易なようです。
症状はヒトも動物もあまり違いはないらしく、発熱、頭痛、嘔吐、下痢、血便、血尿、呼吸障害、意識障害などを示す致死性の疾患です。
ヒトでの潜伏期間は6~14日ほどとされていますが、動物ではよくわかっていません。
また、犬では不顕性感染と言って、感染しても症状を出さずに経過することも多いようですが、ヒトと猫は重症化する可能性が高いです。
では治療法はというと…ほぼありません。
対症療法ですね。
呼吸を楽にするために酸素室に入れる、出血で失われる血を輸血で補う、吐き気止め、下痢止め、痛み止めなどなど…。
ウイルスそのものをやっつける方法は今のところないのです。
今回浜松で出た猫の感染例も、入院から3日ほどで亡くなってしまったとのことですので、攻撃性の高さがうかがえますね。怖ろしい…。
ですが、治せないなら防げばいいのです!
ワクチンとかはまだありませんから、「ウイルスに触れない」ことが重要になります。
そのためには感染経路を知る必要がありますね。
まず、ウイルスの保有者として重要なのが「マダニ類」。
マダニたちは、SFTSに感染した動物から吸血することで「ウイルス保有マダニ」になります。さらに、その保有マダニが産んだ卵、そこから孵った幼ダニたちもウイルスを保有するため、マダニに刺され放題な野生動物などを介して、どんどん「ウイルス保有マダニ」が増えていきます。
動物たちはこの「ウイルス保有マダニ」に吸血されることでSFTSに感染します。
イノシシやシカ、タヌキなどの野生動物の他、家畜類、そしてペットの犬猫。
さらに、人間も。
一方、マダニを挟まず、動物から動物へ直接伝染することもあるようです。
日本では、SFTS感染猫から咬まれたことによりヒトが感染したと考えられる事例や、SFTS感染犬の飼い主が感染したと考えられる事例(この例では咬んではいない)が報告されています。また中国や韓国では、感染者の家族や、医師、納棺師などいわゆる「濃厚接触者」の感染が報告されています。
感染動物の血液には当然ウイルスが潜んでいるわけですが、犬の飼い主や患者の家族への感染事例から考えると、唾液や飛沫、尿、便、吐物など、何から感染しても不思議はないというのが現状でしょう。
では、ウイルスに触れないために注意するべきことは何でしょうか?
主なものをまとめてみました。
①マダニが潜んでいそうな藪や草むらにはなるべく近づかない。
②そういう場所に行く時は長袖・長ズボンに虫よけスプレーも。
③ペットにもマダニ予防を。
④ペットは屋内飼育を。特に猫。
⑤動物の死骸や野生動物・野良猫などにむやみに触れないこと。
細かく説明しましょう。
まず①について、吸血前のマダニは、草木の葉っぱに潜んでいます。そこに人間や動物が通りかかると、飛び移って吸血を始めます。雑木林や草伸び放題の空き地など、要注意ですね。
②も同じようなことですが、どうしても野良仕事で藪に入るとか、キャンプに行くとかの場合には、マダニ対策は万全にしておくべきでしょう。肌は露出させず、長靴やブーツなどを履き、ズボンの裾も靴に入れてしまうとなお良いです。さらに虫よけスプレーも惜しみなく使いましょう。「ディート」や「イカリジン」を含む製品がある程度有効なようです。
そして③、ペットのマダニ予防ですが、動物病院で処方されるマダニ駆除剤が基本です。ペットショップなどで売っている駆除薬や虫よけグッズには要指示薬が使えないため、効果の面で劣ります。
ただ、処方された駆除薬を使えば万全かと言うと、実はそうでもないのです。あくまでも「駆除剤(殺虫剤)」であり、「忌避剤(虫よけ剤)」ではないため、短時間とはいえマダニに晒されるリスクは拭えません。マダニは吸血を始めるまで、数時間動物の体表をうろついて咬みつきやすい場所を探します。その間に落ちてくれると良いのですが、実際には咬みつくのを完全に防ぐことはできないのです。
なので、「病院の駆除剤」と「市販の虫よけグッズ(忌避剤)」の併用が一番良いと思われます。それでもSFTSの感染を100%防ぐことはできませんが、「マダニをなるべく減らす」ことで人間の感染回避にもつながります。
④は、マダニへの暴露を減らすと同時に、野良猫とのケンカや交尾による伝染リスクを回避することができます。
まぁ、現時点では交通事故の方がリスクは高そうですが…しかし交通事故の場合、悪くても亡くなるのは猫さんだけです。もしSFTSを持ち帰ってくれば、ご家族も命の危険にさらされますから、軽く考えることはできません。
そして⑤です。動物思いの優しい方ほど、ケガをした野生動物などを放っておけずに保護したり、死骸を片づけたり、手を差し伸べてしまうものです。これは、道徳的には非常に良いことですが、医学・生物学的にはやや危険を伴う行為です。
まず生きている野生動物については、攻撃してくる可能性があります。手負いであればなおさらです。タヌキやハクビシンなど、比較的小型の動物を犬猫と同じような感覚で連れ帰ろうとする方がいますが、野生の肉食獣であり、大抵は非常に狂暴です。
また動物の死骸は、血液や排泄物などで汚染されている可能性があります。手指のちょっとした傷から何かの感染を許してしまうこともありますので、決して素手で触ってはいけません。移動や埋葬をする場合も、ゴム手袋などをして直接触れないように行ってください。
このような不幸な動物たちを発見した時には、基本的には行政に対応を任せましょう。
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とまぁ、こんなところなのですが、実は皆様にご理解いただきたいことがもう一つ。
我々、「動物病院スタッフの感染防御について」です。
上で書いてきた通り、有効な治療法がなく、ワクチンもない現状では、我々獣医師や動物看護師もSFTSは正直怖ろしいのです。
しかもそれが、動物から直接伝染しうるとなると、診療の方法も感染防御を意識したものに変えざるを得ません。
具体的には、「エリザベスカラーや口輪、鎮静薬、麻酔薬などのより積極的な使用」ということです。
「屋外飼育」「マダニ予防なし」「SFTSを疑う所見」「威嚇するそぶり」など、SFTS感染のおそれやケガをするリスクをこちらで察知した場合、上記のような防御措置を取らせていただくことがあります。
口輪をされたり力いっぱい押さえられたり、かわいそうに見えることもあると思います。
また、麻酔の使用などは健康上のリスクも伴う処置です。必ずご同意の上で実施しますが、もしご同意いただけない場合は検査や処置をお断りする場合もあります。
不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、何卒、ご理解くださいますようお願いいたします。
ということで。
SFTSとは何なのか、身を守るにはどうすれば良いのか、そして、獣医さんもわが身はかわいいというお話でした。笑
このところキャンプブームも来てますし、涼しくなって行楽日和になりますが、秋はマダニのハイシーズンでもあります。
最近は右も左もコロナコロナですが、お出かけの際はちょろっとマダニのことも思い出して、楽しく自然を満喫しましょう!